【連載第12回 高齢者虐待問題〜私はこう考える〜】ねこの手・伊藤亜記氏

 高齢者施設での虐待問題について各分野の有識者の意見を聞く連載企画。今回は、スタッフの教育などについて本紙でコラムを連載中の、ねこの手伊藤亜記社長だ。

–虐待の原因はどこにあると考えていますか。

伊藤 虐待の原因について「人手不足でスタッフのレベルが低下している」「利用者とのコミュニケーションが上手くとれないことなどが理由でスタッフはストレスがたまる」などと言っている人がいますが、こうした意見は「事業者の責任転嫁に過ぎない」と感じます。虐待問題の原因は全て事業者にあり、事業者が責任を持って対応すべきです。

–そう考える理由は何でしょうか。

伊藤 人手不足を招いたのは、事業者側にも原因があるわけですし、どんな人材でも事業者にはそれを採用・雇用した責任があります。例えレベルが低い人材でも、教育・研修をしっかり行い一人前のスタッフに育てればいいだけの話です。
 利用者にしても同様です。そもそも、施設は、その人がどういう性格や状態であるかを理解した上で受け入れています。もし、その利用者とのコミュニケーションをとるのが困難であれば「どうすればコミュニケーションがとれるか」を考え、対応するのがプロです。それをせずに顧客に対して「問題のある利用者」「ストレスの原因」などのレッテルを貼るのは、プロとしての責任を放棄しています。

–スタッフの教育がすべて、ということですね。

伊藤 仕事柄、多くの事業者を見ていますが、教育や研修の方向性が間違っていると感じる事業者も少なくありません。例えば施設内の廊下にゴミが落ちているとします。ある事業者では、管理者がゴミを拾い、後にスタッフに対し「ゴミを捨ててはいけません」「ゴミが落ちていたら拾いましょう」と指導していました。しかし、本来ならば「廊下にゴミが落ちていると、入居者がそれに足をとられたりして転倒するかもしれない」ということをスタッフが自分自身で理解し、自発的にゴミを拾うように教育していくべきです。

– 一方通行的な教育・研修では無意味ですね。

伊藤 虐待防止についても、管理者などに対策を聞くと「スタッフ向けの研修を行いました」と言ってくるケースがあります。しかし、単に「虐待をしてはいけない」と教えるのではなく、「虐待をしないようにするために、我々は介護のプロとして何を考え、どのように行動すべきなのか」を管理職・現場が一緒に考え共通の認識を持たなくてはなりません。



(2016年2月10日号)高齢者住宅新聞