診療報酬改定検証「老人ホームに医療が来ない」 地域包括ケア崩壊も

【高齢者の介護・医療ニュース】

 前号でも報じた様に、今回の診療報酬改定で、老人ホームへの訪問診療点数がこれまでの約4分の1に引き下げられることになった。これは当の医療関係者だけでなく、高齢者住宅事業者やそこで生活する高齢者にとっても非常に大きな影響を与える。今回の報酬改定に問題はなかったのか、国として他に打つべき手はなかったのか、検証する。

在宅医からの「辞退」相次ぐ

 「医療保険を信じて安心して暮らしてきた国民全体を政府が裏切った」

 ある在宅療養支援診療所の医師は、今回の診療報酬改定をこう表現する。

 医療が国の保険制度の上に立脚する以上、制度変更・報酬改定による収支の変動、いわゆる「制度リスク」は受容せねばならない。ましてや昨今の厳しい医療保険財政を考えれば、今回の診療報酬改定に大きな期待が持てないことは関係者であれば覚悟していたことだろう。しかし、その覚悟をもってしても、今回の「同一建物居住者に対する在宅時医学総合管理料」が現行より約4分の1に引き下げられたことは予想しなかった事態だ。2月12日に4月以降の診療報酬が発表されて以降、本紙にも全国の医師から多くの電話・メールが寄せられた。「在宅医療の崩壊だ」。その多くは、悲痛な叫びだった。

 この報酬改定がもたらすもの、それは当然ながら「老人ホームを対象にした訪問診療の縮小」だ。事実、ある大手有料老人ホーム運営会社では、既に約30件もの在宅医療機関から「今後は訪問診療を辞退したい」との申し出があったという。

「病院から施設」逆行する恐れ

 しかし、現実には有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅には、医療的ケアを必要とする高齢者が数多く入居している。そして、その流れを作り出して来たのは他ならない厚生労働省だ。「病院から施設へ。施設から住まいへ」を掲げ医療機関から高齢者住宅への移動を促進させた。

 また、高齢者住宅における医療的ケア充実のための切り札として在宅医療を推奨してきた。高齢者住宅事業者は、そうした国の意向に則って重度医療が必要な人でも受け入れる住宅を供給。国民はそうした住宅を「終の棲家」と考えていた。

 今回の国の行為は、そうした国民に対する裏切り行為ともいえる。国は「従来の4分の1の報酬が適当」と考えるのならば、「医療を必要とする老人ホーム入居者はどこで生活していくべきと考えているのか」「受け入れに対してどのような施策をとるのか」を国民に説明する必要があるだろう。

手間がかかるホームへの訪問

 国が、老人ホームへの訪問診療点数を引き下げた背景には「一度に多くの患者を診ることができる施設への訪問は経営効率がよい」という見方があると考えられる。しかし、医師によれば「効率は決してよくない」という。

 例えば、在宅高齢者への訪問診療であれば、そこに介在するのは利用者本人と医師、その家族などだ。しかし、老人ホームともなれば、本人、家族、医師に加え施設の介護・看護スタッフ、外部の薬剤師など利用者1人に多くの人間が関わる。関係者間の申し送りなど、診察以外の手間が多くなる。

 また必然的に多くの利用者を抱えるため、夜間の緊急コールなども多くなるだろう。24時間体制でそれに対応するとなればとても医師1人では無理であり、複数の医療スタッフはもとより、事務や電話オペレーターなどの間接スタッフなども必要になる。収入がいきなり4分の1に減らされて、こうした診療体制の維持に必要な人件費をどうやって賄っていくというのだろうか。

 診療点数を4分の1に引き下げるとしても、何年間かの経過措置を設けたり、段階的に引き下げたりすれば、医師側としてもその間に何らかの対応ができるはずだ。いきなり4分の1では、医師には「大赤字を出し続けても訪問診療を続ける」か「施設向け訪問診療から撤退する」の二者択一しかない。これが医師・老人ホーム入居者にとって良い結果をもたらすかどうかは火を見るよりも明らかだ。(2月26日号)高齢者住宅新聞